ASTROM通信バックナンバー

2013.06.15

【チェック!!FDAガイドライン草案に見る薬の委託加工の動向】ASTROM通信<28号>

 ~安全な医薬品の安定供給をご支援する~

こんにちは
ASTROM通信担当の橋本奈央子です。

うっとうしい天気が続いていますが、いかがお過ごしでいらっしゃいますか?

さて今回は、今年の5月23日にFDAが発表したGuidance for Industry
“Contract Manufacturing Arrangements for Drugs:Quality Agreements”(薬の委託加工
の取り決め:品質協定)の草案について取り上げたいと思います。

草案ですので、最終版はこれと大きく異なる可能性がありますが、現時点のFDAの委託加工
に対する考え方を知るうえで参考になりそうです。

このガイダンスは、cGMPに従う薬の委託加工に関与する全ての関係者の責任を定義・確立
文書化することについての政府当局の現在の考え方を記述しています。


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ガイダンス草案概要
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■委託加工の“WHO”と”WHAT”の定義■
契約関係者の役割と責任を論じる際、薬を通商の対象としたものをオーナーとみなし、
製品のオーナーのために製造作業を行う存在を受託機関とよぶ。

■委託加工の責任の確立■
(A)法令により規定するフレームワーク
製造、処理、包装、保有において、cGMPに従わない、もしくは、cGMPに則って運用または
管理されない薬は、不良医薬品とみなされる。
cGMPの規定は、品質監視の実施、原材料の安全性、薬の製造に使われる原材料、最終製品
を含む薬の製造の管理を含む。
委託製造について、オーナーと受託機関は、委託製造作業の品質監視を確立し維持し、原料
が委託加工協定のもとで製造されるためにお互いに協力しなければならない。

(B)委託製造と品質管理:既存のガイダンス
様々なガイダンス文書は、品質管理の原則が委託製造作業にいかに関係しているかを示し、
製品のオーナーと受託機関の役割と責任を述べている。
★ICH Q7(原薬GMPのガイダンス)
製造者が、cGMPの責任を詳細に説明した正式な契約を結ぶこと、契約者の設備を監査
することにより、委託者のcGMPの遵守について評価することを勧めている。
★ICH Q9(品質リスクマネジメントのガイダンス)
監査や、供給者の品質協定を遂行することで供給者や委託加工者の総合的な評価を行う
ことを勧めている。
★ICH Q10(医薬品品質システムのガイダンス)
いかなる外部委託活動のコントロールと照査は、最終的に、製薬会社(このガイダンス
では製品のオーナー)の責任であり、品質リスクマネジメントと合体し、次の重要な活動
を含むべきであるとしている:
・製造活動を外部委託する前に、オーナーは、協定でカバーされる供給者や製品やサービス
 に関するコントロールの範囲を評価し、また、リスクに基づき、製造活動をするための
 受託機関の適合性や能力に関する評価の見落としがないか確認すべきである。
・オーナーと受託機関は、関係者の品質関連の製造活動に関する責任とコミュニケーショ
 ン・プロセスを定義し、オーナーと受託機関の間で契約書の中で文書化するべきである。
・オーナーは、受託機関の仕事ぶりを監視・照査し、必要な改良の実施が行われているこ
 とを確認すべきである。
・製造活動を行う全ての関係者は、受け取った材料や原料が定められたサプライチェーン
 を使って、承認された供給源から入っていることをモニタすべきである。

FDAは委託製造活動に携わる関係者が品質管理を実行することを期待する。

■品質協定における委託加工の取り決めの文書化■
FDAは、オーナーと受託機関が個々の責任を記録するために、委託製造の取り決めの中で、
書面の品質協定を作ることを勧めている。以降は、品質協定の中で合意された責任の文書
化に関する当局の考えを述べている
(A)品質協定とは何か?
品質協定は、cGMPに従う薬の委託加工関係者の品質部門における義務と責任を定義し確立
する包括的な書面の契約である。

(B)品質協定の構成要素
大部分の品質協定は次の基本的な章を含む。
・目的/範囲
・条件(発効日と契約解除条項を含む)
・論争解決
・責任 コミュニケーション方法と問合せ先を含む
・変更管理と改訂

cGMPの視点では、品質協定のもっとも重要な要素は、関係者の個々の責任と、変更管理の
議論である。
1.責任
品質協定の関係者が、特定のサービスや運用について、cGMPの責任を負うかを明確に文書化
すべきである。委託加工契約のもとで提供されるサービスの範囲により、品質協定は、次の
テーマに関する特定の活動を、オーナーと受託機関のどちら(もしくは両方)が担当するか
示すべきである。
  1)品質部門の責任
  2)設備と装置
  3)原材料管理
  4)製品固有の条件
  5)試験室管理
  6)文書化
2.再委託先を含む変更管理
変更は、さまざまな理由で、どちらの関係者も行うかもしれないので、品質協定の中で取り
扱われなければならない。

■実例となるシナリオ■
次の仮説のシナリオは、委託加工の協定の中で起きるいくつかの共通の問題を示し、その
解決策となりうる考えを示している。

(A)品質協定は、受託機関について、cGMPの要件を免除しない。
★ケース1:設備や装置の保全に対する責任 及び 受託機関の維持
 FDA査察で、注射剤を加工している受託機関で好ましくない状況が明らかになった。
 ほとんどは、注射剤の製造に使われる設備や装置の不完全な保全に関するもので
 ワーニングレターが受託機関に発行された。
 この受託機関は、設備や装置の改善や保全に関する製品オーナーの責任を明記した品
 協定を持っている。オーナーは必要なリソースの提供や、必要な改善・保全実施していな
 かった。受託機関はnon-cGMPの状態で製造を続けた。

★ケース2:製造工程の手順の文書化の責任
 受託機関は、オーナーのANDA(FDA医薬品簡略承認)に従った委託加工の責任がある。
 査察で、受託機関のバッチの記録は、再生粉末の追加に関する文書化がされていなかった
 ために、実際の製造工程を正確に反映していないことがわかった。
 受託機関は、不完全なバッチ記録は、製品オーナーの要望に一致していると主張した。

品質協定が存在しても、関連する運用については、cGMPの要件を免除しない。
上の2ケースは、どちらも、受託機関はcGMP不履行の責任を負う。なぜなら、品質協定の
責任分担に関わらず、受託機関は、本来non-cGMP状態での製造を認められないからである。
いかなる場合も、品質協定の規定は、受託機関が関係する運用においてcGMPに従うという
義務を軽減するものではない。同時に、オーナーは、品質協定が受託機関に活動を分担した
からといって、市場に出す製品の品質や製品を保証するという責任を軽減するものではない。
FDAは、上のケースで、受託機関に問題を見つけた後、オーナーを査察し、証拠が集まれば、
cGMP不履行、または、受託機関がcGMPに従って製造を行うことを保証するための監視不履
行によりオーナーの責任を問うこともあるかもしれない。
その不履行の重要度により、オーナーは、回収、没収、強制命令、その他の制約を受ける
可能性がある。
当局は、オーナーの製品が米国に入ることを拒絶する検討を行う可能性がある。

(B)契約した検査機関は、cGMPの要件に該当する受託機関である。
★ケース3:試験記録とテスト結果のデータの完全性に関する責任
試験分析サービスを行う受託機関が、実際の分析で失敗という結果が得られた時に合格の
結果を報告している。また、受託機関は、顧客である製品オーナーに正確な結果を報告して
いない。
FDAがオーナーを査察し、受託機関の現場監査を2年に1回行う手順があるにも関わらず、
オーナーがFDA査察に先立って契約検査機関を査察していなかったことが明らかになった。

★ケース4:方法確認の責任
この契約検査機関の所定の査察で、規格外の結果に関する調査不履行、安定性試験要サン
プルの複製失敗と、是正措置の不履行が明らかになった。調査の一部は、複製の失敗は、
分析技術に関わることを示唆していたが、問題のある技術が調査や分析方法の中で明確に
特定されていない。受託検査機関の経営者は、自分たちがテストに使用している方法は、
NDA(新薬承認)保有者によるものなので、分析方法に関する調査や是正の責任はないと
主張した。受託機関は、方法が適切でないという認識があるのに関わらず、疑問のある
方法で製品のテストを続けている。

受託検査機関は、他と同様の受託機関であり、製品オーナーと同意したいかなる品質協定
の規定に関わらず、cGMPに従う責任がある。
受託検査機関は、オーナーが最終的な処理の判断を下せるよう、データとテスト結果を
提供しなければならない。
上の両ケースとも、受託機関は、彼らの行う検査活動において、cGMP違反を取り除く責任
を負う可能性がある。加えて、オーナーには、製品が法令に従って作られたことを最終的
に保証することが要求されているので、誰が製品のテストをしたかということや、品質協定
に関わらず、cGMP違反の責任を負う可能性がある。オーナーは評価、適格性の判断、監査、
契約者/供給者のモニタリングに関する手順不履行を問われるかもしれない

■結論
書面の品質協定は、既存のcGMPではっきりとは要求されていないが、オーナーと受託機関は、
薬の委託加工の複雑なプロセスを実行するために、薬の製造、テスト、その他の運用サポ
ートの関係者の責任を定義し、確立し、文書化することで、品質管理の原則を作ることが
できる。FDAは、オーナーと受託機関が責任を詳しく記述し、薬の品質、安全性、有効性を
保証するためのツールとして品質協定の文書化を勧めている。

※拙い日本語訳なので、興味のある方は原文をご覧いただければ幸いです。
http://www.fda.gov/downloads/Drugs/GuidanceComplianceRegulatoryInformation/Guidances/UCM353925.pdf


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ガイドライン草案のまとめ
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長い文章だったので、げっそりされたかもしれません。
読み飛ばした方は、是非、FDAが例示した4つのケースだけでもお読みください。

外部委託する場合でも、最終的な責任が委託元にあることは当然ですが、このガイドライン
の草案は、受託機関の責任についてもかなり触れられています。
今後、委託加工に関する規制がより一層厳しくなる可能性も想定しておく必要があると思
われます。

また、本ガイドラインは、一方で品質協定を結ぶことを勧めておきながら、もう一方で、
品質協定を結んだところで、cGMPに違反すれば、責任は軽減されないとも書かれているのも、
面白いところです。

なぜこの時期に、一見矛盾するガイドラインを出そうとしているのか、気になるところです
が、それだけ委託加工に関わる問題が多いからではないかと思います。
受託機関のスキルや品質管理レベルとは関係なく、きっちり品質協定を作成し、双方の責任
範囲を明確にしておけば回避できる問題が多いということなのではないでしょうか。


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まとめ
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2013年6月7日版の薬事日報の4面に、最近、厚労省が、後発品原薬の安定調達にむけて、
原薬のサプライソースを複数持つように求めているという記事がありました。

記事には、“世界的な規模で展開する外国製造業者に対して、年間100kg程度しか購入し
ない原薬のサプライソースを分けて注文しようとしても、それに応じてくれる外国製造
業者はなかなか見つからず、結果的に少量でも対応できる零細な原薬メーカーとの取引
が増える結果になりかねない”と書かれていました。

サプライソースを分けるということは、調達リスクの軽減にはなりますが、品質リスクを
増加させる可能性も大いにあります。
ガイドライン草案に書かれているように、契約者双方の役割や責任範囲を明確にする文書化
した品質協定の必要性がますます高まると思われます。

今回のアメリカのガイドライン草案を対岸の火事と見るのではなく、是非、日本の委託加工
の契約の参考にして頂ければと思います。


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インターフェックスのご案内
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今年も、医薬品の研究開発・製造技術の国際展示会であるインターフェックスが下記の
日程で開催されます。

 日程:2013年7月10日(水)~7月12日(金)
 場所:東京ビックサイト

弊社もITソリューションゾーン(ブース:48-35)に出展いたしますので、是非、
お立ち寄りください。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。
☆次回は、6/30が日曜日のため、6/28(金)に配信させていただきます。

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