ASTROM通信バックナンバー

2014.11.14

【FDAガイダンス『医薬品査察の遅延、拒否、制限、拒絶に相当する状況』】ASTROM通信<62号>

 ~安全な医薬品の安定供給をご支援する~

こんにちは
ASTROM通信担当の橋本奈央子です。

今年も残すところ1ヶ月半。だんだん気忙しくなってきましたが、いかがお過ごしでいらっしゃ
いますか?

2014年10月21日、FDA(米国食品医薬品局)は、『医薬品査察の遅延、拒否、制限、拒絶に相当
する状況』と題する業界向けガイダンスの最終版をリリースしました。
このガイダンスは、FDAが査察の遅延、拒否、制限、立ち入りもしくは査察の拒絶にあたると考え
る行動、無行動、状況について定義しています。

FD&C Act(連邦食品・医薬品・化粧品法)の新しい章である501(j)は、査察の遅延、拒否、制限、
拒絶を行っていると判断された設備で製造・保管されている薬は、不良医薬品とみなすとして
いるため、注意が必要です。

そこで今回は、ガイダンスを読んで、どのような行動が査察の遅延、拒否、制限、拒絶とみなさ
れるのかを確認していきたいと思います。


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査察の遅延
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遅延は、いろいろな理由で発生し、そのうちのいくつかはコントロールできないものかもしれま
せん。しかし、設備の所有者、運営者、代理人が査察の遅延を引き起こす場合、FD&C Actの501(j)
に基づき、遅延は薬に不純物の混入をもたらすかもしれないとみなします。

A.事前に通知された査察の遅延
FD&C Actは、FDAに査察の事前通知を求めていません。したがって、FDAは、正当な理由があり、
所定の査察である場合、事前通知しません。しかし、査察官が査察サイトに到着する前に、事前
に承認を得て、会社に連絡をとるのが一般的な手順であり、医薬品を製造している海外の設備の
ほとんどの査察では事前通知を実施しています。この事前通知は、要求はされていませんが、
査察を容易にし、適切な記録や人員が利用できることを保証します。
FDAは、天候や治安情勢、休日や非営業日といったローカルな事情や、製造期間を考慮して査察
を計画します。事前通知した査察スケジュールの遅延に関する次の例は、FD&C Actの501(j) に
基づき、薬に不純物の混入がもたらされるかもしれないとみなします。遅延の判断は、この例に
限定されません。
・提案された査察開始日に同意せず、その合理的な説明をしない
・査察のスケジューリングをした後に、合理的な説明をせずに、開始日を遅らせることを要求する
・FDAの連絡に回答しない
合理的と思われる次のような例の場合は、薬に不純物の混入をもたらすとはみなされないかも
しれません。
例えば月に1度しか製造されていないために製造が行われていないため、FDAが提案したのとは
  別の日を提案する

B.査察中の遅延
FDAの査察は、設備が法律や規則に従っていることをレビュすることを可能にします。FDAは、
薬に不純物が混入されていないか、不当表示されていないか、または、FD&C Actに違反していない
かを査察するために広範囲の権限を持っています。査察現場で、合理的な方法で査察を行うFDAの
査察官を邪魔する設備の所有者、運営者、代理人の行動は、査察の遅延とみなされるかもしれま
せん。
FDAは、現場に行くことが、設備の従業員に多少の混乱や不便をもたらすかもしれないことは
わかっています。FDAの要求に従うための努力から生じる小さな遅れは、不当とはみなさないで
しょう。
FD&C Actの501(j)に基づいて、薬に不純物の混入をもたらすかもしれないとみなす遅延は次の
通りです。ただし、遅延の判断はこの例に限定されません。
・そのエリアが使用可能で、FDAが査察する権限を持った査察サイトのエリアであるにもかかわら
  ず、合理的な説明なしに、特定の日付までFDAの査察官が、アクセスすることを許可しない
・FDAの査察官を、必要な文書や責任者にアクセスさせることなく、不合理な長さの時間、会議室
 に残して査察を妨げる
合理的と思われる次のような説明があれば、薬に不純物の混入をもたらすとみなされないかも
しれません。
・文書化された更衣の手順に適合するまで、FDA査察官に無菌処理エリアへのアクセスをさせない

C.記録の作成の遅延
FDAの査察準備や査察の重要な方法として、薬に不純物が混入されていないか、不当表示されて
いないか、または、FD&C Actに違反していないかを確認するために、ハードコピー、電子記録、
ファイル、紙のレビュと収集があります。たとえば、法令準拠を確認するために記録がレビュ
されますが、エビデンスを作成する必要もあるかもしれません。
記録が異なるサイトに保管されている場合、要求された記録を作る為に合理的に十分な時間が
必要であることをFDAはわかっていますが、合理的な説明なしに記録の作成が遅れる場合査察の
遅延とみなされるかもしれません。
記録の作成の遅延に関する次の例は、FD&C Actの501(j) に基づき、薬に不純物の混入がもたら
されるかもしれないとみなします。ただし、遅延の判断は、この例に限定されません。
・査察中、FDAの査察官は、特定の合理的な期間内に査察に必要な記録を要求するが、合理的な
 説明なしに要求された期間内に要求された記録を作らない
・FDAはFD&C Actの704(a)(4)に準ずるレコードを要求するが、合理的な説明なしに、タイムリー
 に要求された記録を作らない
合理的と思われる次のような説明があれば、薬に不純物の混入をもたらすとみなされないかも
しれません。
・FDAの査察官が記録の英語への翻訳を要求し、翻訳が間にあわない
・要求された記録が、進行中である製造作業に使用されているため、その時に利用可能でない
・要求された記録のボリュームが大きく、編集するために相当の時間がかかる
記録の作成が遅れる合理的な説明がある場合、遅延が合理的な期間であることを保証すべきです。


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査察の拒絶
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FDAは、FDAの正式代表者が査察を実施することを妨げる、または、FDAの査察を完遂することを
妨げるための、設備の所有者、運営者、代理人による積極的なふるまいを含む拒絶について解説
しています。
これは、発言、査察を妨げるための物理的な活動、間違った方向への誘導、欺き、査察官の邪魔
を含みます。
FD&C Actの501(j)に基づいて、薬に不純物の混入をもたらすかもしれない拒絶につながるふるまい
の例は次の通りです。ただし、拒絶の判断は、この例に限定されません。
・事前に通知された査察を計画するFDAの試みを拒絶する
・施設に到着時、FDAの査察官が査察を開始することを許可しない
・合理的な説明なしに、職員が存在しないことを理由にFDAの査察官が査察することを認めない
・設備で薬の製造、処理、包装、保管を行っていないと偽りの主張をし、FDAの査察官が査察する
 ことを認めない
・その日スタップを家へ帰し、FDAの査察官には、いかなる製品も製造していないと言う
合理的と思われる次のような説明があれば、薬に不純物の混入をもたらすとみなされないかもしれ
ません。
・事前に通知されていない査察のはじめには、適切な職員がFDAの査察官の質問に適切に答える
 適切な人員がすぐには用意できない
・FDA査察官が事前に通知せず到着したが、設備が、計画された設備メンテナンスにより閉じている


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査察の制限
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法律で認められた査察を実施しようとするFDAの正式代表者を止めようとする設備の所有者、運営
者、代理人は、FD&C Actの501(j)に基づき、査察の制限とみなされるかもしれません。下記は、
FD&C Actの501(j)に基づき、FDAが、薬に不純物の混入をもたらすかもしれない査察の制限と
みなすふるまいの例です。

A.設備または製造工程へのアクセスの制限
FDAの代表が査察の権限を与えられたサイトのあるエリアに合理的にアクセスすることを妨げる
ことは、査察の制限とみなされるかもしれません。これは、製造工程の開示や監視の拒絶を含み
ます。下記はその例ですが、これ以外でも査察の制限とみなすことがあります。
・合理的な説明もなく、FDAの査察期間中、全ての製造の停止を命じる
・製造工程の全て、または、一部の監視を、不当に短い時間に制限し、FDAの査察を妨げる
・合理的な説明なしに、製造工程の監視を制限する
・合理的な説明なしに、不当に設備の特定の部分に立ち入ることを制限する
・査察の完了前にFDA査察官を設備から去らせる
薬に不純物の混入をもたらすとみなされない合理的と思われる説明は次の通りです。
・文書化された更衣の手順に適合するまで、FDA査察官に無菌処理エリアへのアクセスをさせない
特定のエリアに入る前に職業安全衛生管理局によって指定された教育が必要であり、FDAの
 査察官がその教育を終えていない

B.写真撮影の制限
写真は、その時の設備の状態を客観的に示すので、FDA査察の不可欠な部分です。
写真によって実証される状態や手順の例は次の通りです:げっ歯動物あるいは昆虫の侵入の証拠、
設備や施設の不完全な構造やメンテナンス、製品の保管状態、製品ラベルとラベル付け、原材料
または完成品の一目瞭然の汚染
FDAの査察官の写真撮影に対する邪魔や抵抗は、写真が査察を効果的に行うために必要であると
判断される場合は、写真撮影の制限とみなされるかもしれません。
薬に不純物の混入をもたらすとみなされない合理的と思われる説明は次の通りです
・工場で製造される製品の化学的特性が、写真撮影により製品品質に悪影響を及ぼす

C.記録へのアクセスまたはコピーの制限
“記録の作成の遅延”の部分で述べたように、記録へのアクセスやコピーは、FDAの査察の重要な
方法です。FDAの正式代表が記録にアクセスすることを許されなかったり、法律に基づき査察する
権限を持つFDAが記録にアクセスしたりコピーすることを許されなかったり、記録を提供されない
場合は、査察の制限とみなされるかもしれません。
記録の制限の例は次の通りです。ただし、これ以外でも記録の制限とみなされることがあります。
・FDAが査察する権限を持つ出荷記録について、FDA査察官のレビュを拒む
・FDA査察官が要求した、FDAが査察する権限のある記録を一部しか提供しない
・FDA査察官が要求した、FDAが査察する権限のある記録について、不当に編集されたものを提供する
・704(a)(4)に準拠してFDAが要求した記録の提供を拒む、または、不正に編集された記録を提供する


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サンプル収集の制限または妨害
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サンプルの収集はFDAの査察にとって重要であり、規制に基づく活動です。
FD&C Actの702(a)は調査を実施し、サンプルを収集する権限を与えています。FDAの正式代表が
法的に認められたサンプルを収集することを妨害することは、査察の制限とみなされるかもしれ
ません。
FDAが次のサンプル収集をしようとすることを断ったり邪魔したりすることは、サンプル収集の
制限の例です:環境のサンプル、最終製品のサンプル、原材料のサンプル、中間材料のサンプル、
生物学的同等性・生物学的分析用の保管品のサンプル


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立ち入りまたは査察の拒絶
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FDAは、設備の所有者、運営者、代理人による能動的なふるまいだけではなく、受動的なふるまい
や、何もしないことによって、FDAの正式代表が設備に立ち入ることが出来なかったり、査察を十分
に行えなかったりすることも、立ち入りまたは査察の拒絶にあたるとしています。
このガイダンスの目的は、設備の所有者、運営者、代理人が、工場、倉庫、その他の施設の査察を
許可する措置を講じなければ、立ち入りや査察を拒絶したとみなすということを示すことにあり
ます。
下記は、立ち入りまたは査察の拒絶の例を示していますが、これ以外でも立ち入りまたは査察の
拒絶とみなすことがあります。
・合理的な説明なしに、例えば、開錠しなかったり、査察官によるアクセスを許可する必要な
 アクションを取らなかったりすることで、施設または施設の特定のエリアにFDA査察官が立ち
 入ることを禁じる
査察を計画するために指定された担当者にコンタクトをとろうとするFDAに対し、回答しない
・明らかに工場にいるのに、FDAの査察官の呼び出しに応じない

出典
http://www.fda.gov/downloads/regulatoryinformation/guidances/ucm360484.pdf


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FDAのデータ・ダッシュボード
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このガイダンスに関連し、FDAは、データ・ダッシュボードという形で、査察結果の情報を公開
しています。興味のある方は是非一度ご覧ください。

データ・ダッシュボードのURL
http://govdashboard.fda.gov/

国別の査察件数や、その国の査察企業の情報が、次のURLから確認できます。
http://govdashboard.fda.gov/public/dashboards?id=140


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まとめ
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ガイダンス『医薬品査察の遅延、拒否、制限、拒絶に相当する状況』に登場する例は、FDAが
査察の準備をしたり実施したりする時に実際に遭遇するケースや、発生が予測されるケースだ
そうです。
記録の準備に時間がかかるといったことは普通にあると思いますが、それが査察妨害ととられ
ないためには、とにかく合理的な説明をすることが重要だと思います。
日本の企業がFDA査察を受ける場合、英語力のせいで説明が不足してしまうこともあるでしょう
が、ひとたび妨害ととられれば、工場で不良医薬品を作っているとみなされる可能性もあるため、
十分注意が必要だと思います。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。
☆次回は、11/28(金)に配信させていただきます。


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