ASTROM通信バックナンバー

2017.06.01

【MHRA発GMP査察時の不備報告 他 ヨーロッパ規制関連動向】ASTROM通信<123号>

 ~安全な医薬品の安定供給をご支援する~

こんにちは
ASTROM通信担当の橋本奈央子です。

一気に暑くなってきましたが、いかがお過ごしでいらっしゃいますか?

さて、前回と前々回は、米国食品医薬品局(FDA)のウォーニングレター(Warning Letter)を取り上げて
きたので、今回は、ヨーロッパの規制関連に関する下記3つの話題を取り上げたいと思います。
1.ATMP GMPガイドライン案の作成におけるECとPIC/Sの溝
2.英国のEU離脱について
3.英国医薬品庁による2016年実施GMP査察における不備の傾向レポート

最後までお付き合い頂ければ幸いです。


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1.ATMP GMPガイドライン案の作成におけるECとPIC/Sの溝
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欧州委員会(EC: European Commission)が単独で作成した、
先端治療医薬品(ATMP: Advanced Therapy Medicinal Products)のGMPガイドライン案が、ATMPのGMP要求を
下げ患者の健康リスクを増大させる点や、PIC/S GMPガイドラインとの調和がはかられていない点について、
PIC/Sは2017年2月24日ECに対し遺憾の意を表明する文書を発行しました。
ECは2017年4月5日に、書簡にて、ATMPの品質の保証と患者の安全の保護に加え、この件のイニシアチブに
ついてPIC/Sと約束をしました。
それに対し、PIC/Sは再度、2017年4月24日に、PIC/Sのポジションや、患者の安全に関する大きなギャップ
の再確認と、ECとPIC/Sの協力の範囲の明確化を求める書簡を送っています。
書簡の中には、下記のことが書かれています。
・EUのPIC/Sメンバ国以外も交え患者の安全に関する説明と議論の場を設けるというECの提案を受けて、
 PIC/Sは共同ワーキンググループを提案したが、それに対するECからの回答がないこと
・ECがPIC/Sとの協力の範囲を明確化してほしいこと
・最新のATMP GMPガイドラインのドラフトを送ってほしいこと
・このような状態で、ECが2017年4月26日にガイドライン案を仕上げる会議が計画されているとしらされたこと
・不調和のリスクは、現在のグローバルな規制の枠組みに重大な結果をもたらすかもしれない。
この内容を見ると、4月5日のECからPIC/Sにあてた回答は両者の溝を埋めるにはいたっていないことがわか
ます。

ATMP GMPガイドライン案
http://ec.europa.eu/health//sites/health/files/files/advtherapies/2016_06_pc/2016_06_draft_guideline.pdf
2017年2月24日 PIC/S→ECへの文書
file:///C:/Users/hashimoto/Downloads/PS_L_11_2017_Letter_to_EC_concerning_GMP_ATMP.pdf
2017年4月24日 PIC/S→ECへの文書
file:///C:/Users/hashimoto/Downloads/PS_L_20_2017_Letter_to_EC_concerning_GMP_ATMP.pdf


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2.英国のEU離脱について
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欧州医薬品庁(EMA)は、2017年4月27日に、その運営委員会のメンバ、EU/EEAメンバ国の管轄庁の代表と
会議を開き、EUを離脱するイギリスを考慮してメンバ国間で薬の評価やモニタリングに関する作業を分担
するかの議論を開始しました。
イギリスの離脱の期日の交渉はまだ公式に始まっていないし、その結果を前もって判断はできませんが、
2019年3月30日以後にイギリスはEMA及びヨーロッパの医薬品の規制システムに参加しないことを予測した
シナリオに基づき、作業を開始する予定です。
作業負荷の配布に関する原則として以下のことを含みます。
・事業継続性を保証すること
・科学的アセスメントの品質と安定性を維持すること
・法的タイムラインに従うこと
・既存のナレッジを強化、または、ナレッジの移転により、ナレッジの保持を保証すること
・容易な実施と、中長期の持続可能性を保証すること
2017年7月5日に次回の会議を開催します。

出典
http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/Press_release/2017/04/WC500226559.pdf


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3.英国医薬品庁による2016年実施GMP査察における不備の傾向レポート
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英国医薬品庁(MHRA : Medicines & Healthcare products Regulatory Agency)が、2016年に実施したGMP査察
における不備の傾向をまとめたレポートを発表しました。
このレポートは、製薬会社の自己点検と継続的改善に役立てることを目的に作られていて、製剤関連のみでは
ありますが、MHRAがEU GMPガイドラインをベースに不備の具体例が挙げられています。

2016年に取り上げられた不備のTOP10は下記の通りです。(クリティカルの件数順)
1位【品質システム】 クリィティカル:38件 メジャー:449件 その他:772件
2位【滅菌保証】 クリィティカル:34件 メジャー:190件 その他:162件
3位【製造】 クリィティカル:20件 メジャー:191件 その他:543件
4位【苦情と回収】 クリィティカル:11件 メジャー: 80件 その他:110件
5位【適格性評価/バリデーション】クリィティカル:10件 メジャー:123件 その他:232件
6位【建物及び設備】 クリィティカル: 9件 メジャー:113件 その他:464件
7位【コンピュータ化システム】 クリィティカル: 9件 メジャー: 44件 その他:120件
8位【職員】 クリィティカル: 8件 メジャー: 42件 その他:150件
9位【文書】 クリィティカル: 2件 メジャー:166件 その他:646件
10位【品質管理】 クリィティカル: 2件 メジャー: 42件 その他:192件

このTOP10を2015年と比較すると下記の通りです。
2016年 ⇔2015年
1位【品質システム】 ⇔1位【品質システム】
2位【滅菌保証】 ⇔2位【苦情と回収】
3位【製造】 ⇔3位【文書】
4位【苦情と回収】 ⇔4位【品質管理】
5位【適格性評価/バリデーション】 ⇔5位【コンピュータ化システム】
6位【建物及び設備】 ⇔6位【製造】
7位【コンピュータ化システム】 ⇔7位【建物及び設備】
8位【職員】 ⇔8位【バリデーション】
9位【文書】 ⇔9位【職員】
10位【品質管理】 ⇔10位【原料の管理】

●EU GMPガイドライン1章(医薬品の品質システム)に関する不備の例
■事象の調査及び是正処置・予防処置(CAPA : Corrective Action and Preventive Action)の実施に関する不備
・逸脱報告書は、実施された調査や、提示された根本原因を裏付けるエビデンスを示すのに十分な情報を含んで
 いなかった。
・あるケースでは正式なCAPAが実施されていなかった。また、他のケースでは、CAPAが適正でなかった。繰り返さ
 れる逸脱について、問題を解決するための、傾向のレビュやCAPA自体の不具合のレビュがされていなかった
・製造所が、工程や製品品質をモニタするための効果的な管理システムを制定し維持することを行っていなかった。
 また、根本原因を判断し、適切な是正処置及び予防処置を実施する目的のために、適切なレベルの調査を実施
 したり、すべての潜在的に重大な事象について完全に記録していなかったりした。
調査を適切かつ徹底的に確実に実施するための十分詳細な逸脱手順の不備
・バッチの逸脱の影響を確認するための要件がなかった。
・患者の安全への影響がある可能性のある問題の場合、タイムリーに上位レベルにエスカレートする手順がなかった。
・根本原因を“人的ミス”と特定する前に、手順、手続きまたはシステムのエラーが見過ごされないことを保証する
 要件がなかった。
・手順の中に、“タイムリーな方法で”という文言以外に、逸脱の処理を完了するタイムラインがなかった。
・記録された根本原因は、いつも、手順通りに確認されているわけではなかった。
・少なくとも8件の、査察前に終了せず延び延びになっているCAPAがみつかった。
・2件の延び延びになっているCAPAは、査察時に未処理だった。(186日と60日が経過)
134件の逸脱が2015年11月から2016年2月に発生していたが、CAPAは実施されていなかった。
1つのフォームに異なる期日が記載されていたが最新の日付のみが確認され、多数のCAPAについては、効果的な
 モニタリングが実施されていなかった。
CAPAの効果のレビュがマネジメントレビュの一部として行われていたが、そのプロセスの記述は不十分で、
 マネジメントレビュは年に1回行われているだけで、リスクに基づくプロセスではなかった。
■製剤の品質システム(PQS : Pharmaceutical Quality System)の効果的な実施と継続的な改善に関する経営陣の
監督の不足に関する不備
・正式なマネジメントレビュの手順がなかった。
・多数の工程改善が会社のいたるところで確認されたが、PQSの記録や管理がされていなかった。
多数のCAPAが以前のMHRAの査察以降完了していないことが証明するように、経営陣は効果的な品質マネジメント
 システムの実施を保証することを怠っていた。
品質システムの効果的な実施をレビュするための部門管理者たちによる月次品質会議に関する文書化された手順
 がない。
・マネジメントチームは、品質システムの効果的な実施や、成分・工程・システム自身の継続的な改善の機会を
 見いだすことを怠った。
・現在の品質測定の報告方法は、品質システムの効果的な実施を十分に確認し、モニタし評価することを考慮して
 いない。例えば、未処理または期限切れの品目は検討対象として報告されていない。
・マネジメントレビュの会議で報告された目立った品質項目は、アクション遅延の根本原因を特定しようとされて
 いなかった。リスクアセスメントが実施されていないか、アクションの遅延への取り組みが遅れることによる
 患者の安全への影響や、PQSの効果を評価するために正式に文書化されていなかった。
・マネジメントレビュの手順が不十分である。たとえば、クリーンルームの環境モニタリングの結果に明らかに
 問題のある傾向が増加しているにも関わらず、ミーティングのメモには全ての環境モニタリングの結果は問題
 ないと書かれていた。
・月次の品質システム測定は、供給者監査のステイタスを含まず、性能の変化の効果的なレビュを可能にし、
 品質システムが管理された状態にあることを確認するための製造所の経時的な性能を示さなかった。
■変更管理に関する不備
・変更の性質と、実施された活動を述べた詳細の記録が不十分であった。
どのレベルの変更管理にリスク評価や規制関連業務のレビュが求められ、どのレベルに求められないのかの定義
 がなかった。
・変更管理活動の実施後の効果のレビュがなかった。
・変更が会社の変更管理手順の外で実施されていた。
・計画された変更の予測評価に関する手順と、規制当局による通知を考慮した手順の実施前の承認が確実では
 なかった。
・有効性確認の実施後に文書化をする要件がなかった。
■製品品質レビュ(PQR : Product Quality Review)に関する不備
・PQR手順は、全供給ルートや製造者(仲介業者を含む)を考慮した原薬のサプライチェインのトレーサビリティ
 のレビュを要求していなかった。
・完了したPQRは、関連する技術契約が適切に実施されていることを確認していなかった。
・現在進行中の安定性調査において、問題のある傾向を示していないことや有効期限内で使用が維持されることが
 予想されるという確認がない。
・重大パラメータのレビュにおいて、傾向があるかどうかの判断をするためのデータの提供がなく、判断について
 のコメントもない。
・システムが要求通りに機能していることを判断する際に、精製水の検討がない。
・PQRがタイムリーな方法で完了されていなかった。
 -9件のPQRは6ヶ月以上、あるものは1年間近く未処理だった。
 -完了したPQRのうち少なくとも29件は、3ヶ月の期限を6ヶ月以上超えていた。
■規制の改訂をモニタせず、適切なアクションをとらなかったことに関する不備
・規制要件の変更を把握し、製造所への影響を考慮することを確実に行う仕組みがなかった。
・レビュ、評価、適切にEU GMPの改訂を実施するための正式なシステムがなかった。
・規制の改訂をレビュするための正式なシステムがなかった。
■製品の返品に関する不備
返品の手順に、返品された商品が、返品前、顧客により適切な温度条件で保管されていたことを検証することが
求められていなかった。
出典
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/609030/MHRA_GMP_Inspection_Deficiency_Data_Trend_2016.pdf


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まとめ
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今回は、ヨーロッパの話題でしたが、いかがでしたでしょうか。

1つ目の記事。ECが単独でGMPガイドライン案の作成作業を進めたことにより、ECとPIC/Sに溝が生まれていること
に驚きました。これまで、EU GMP ガイドラインが改訂されると、少し時間をおいてPIC/S GMPガイドラインも
EU GMP ガイドラインにならうように改訂されてきましたが、このまま溝が深まれば、それがなくなってしまう
可能性があります。
ECの今後の進め方によっては、せっかく出来上がりつつあるグローバルスタンダードが崩壊しかねない状態にある
のは気になるところです。

2つ目は、イギリスのEU離脱に関する内容でした。イギリスはEU離脱後もPIC/S加盟国ではありますが、日本-EU間
で締結されている相互承認協定が適用されなくなった場合、どのような影響が生じるのか気になるところです。

3つ目の英国医薬品庁による2016年実施GMP査察における不備の傾向レポートは、不備の具体例がのっていて興味深
かったです。不備の中には、日本の製薬会社様にも当てはまる内容がありますので、非常に参考になると思います。
次号では、EU GMPガイドラインの2章以降と、各Annexに関する不備をみていきますので、是非ご覧ください。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。

☆次回は、6/15(木)に配信させていただきます。


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おしらせ
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ブースは、東1ホールのITソリューションゾーン【E25-26】となります。
お時間がおありの方は、是非弊社ブースにお立ち寄りいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。

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