ASTROM通信バックナンバー

2018.01.05

【医薬品の連続生産について】ASTROM通信<137号>

 ~安全な医薬品の安定供給をご支援する~

明けましておめでとうございます。
ASTROM通信担当の橋本奈央子です。
本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

さて、新年最初のメールマガジンは、医薬品の連続生産について取り上げたいと思います。

この「連続生産」については、2017年10月13日付ASTROM通信132号でも取り上げたことがあるのですが、
昨今非常に注目されてきていて、今後ますます研究が進み実用化が検討化されていくと思われるため
2018年最初のテーマとしました。

最後までお読みいただければ幸いです。


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1.連続生産とは
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連続生産(CM:Continuous Manufacturing)とは、原材料を連続的に製造工程内に投入し、製造後の
生産物を連続的に取り出す生産方法をさします。

連続生産と対局にあるのが、既存のバッチ製造(またはセミバッチ製造)で、全量(または分割)の
原材料を、非連続的に工程に投入し、操作が完了後に生産物を取り出す生産方法となります。

連続生産は、石油化学や金属、鉄鋼、食料品分野では一般的な生産方法なのですが、医薬品分野では
新しい技術であり、日本国内で連続生産が承認された医薬品はまだありません。
しかし、FDA(米国食品医薬品局)は積極的に連続生産を推奨し、既に、2015年7月にはVertex社の新薬
である嚢胞性線維症治療薬Orkambi(ルマカフトール/アイバカフトール)の連続生産を承認、
2016年4月にはJanssen Product社のHIV-1感染症治療薬Prezista(ダルナビル)のバッチ製造から連続生産
への変更を承認しています。


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2.連続生産への期待
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FDAはなぜ連続生産を推奨するのでしょうか。
それは、連続生産に以下のことが期待されているためです。

・工程が連結されることにより、作業者が介入する機会が減る
→人的ミスを減らすことができる

製造時間を減らすことができる
・設備の省スペース化が実現できる
 →小規模な施設で医薬品が製造できる
 →製造所の変更や移動が容易になるため、事業継続性の点でもメリットがある

・PAT(Process Analytical Technology)等のオンラインのモニタリング技術により、品質不良を早い
 段階で防げる
 →薬の不足の予防につながる
  安定した高品質な医薬品製造が可能となる
  リアルタイムリリース(最終製品試験の代わりに中間品または最終製品の製造データに基づいて
  品質を評価・保証する)が可能となる

・少量多品種の製造に適している
 →個別化医療に適用できる

・需要に応じた製造のスケールアップ、スケールダウンが可能
 →製造・保管等のコスト軽減ができる

これらが実現できれば、患者さんのベッドサイドで、患者さん一人一人に適した医薬品を低コストで製造
できるのではないかという夢のような話もあります。
もしそうなれば、高齢化社会による医療費の上昇、労働力人口の減少による製薬企業の人手不足といった
社会的問題を解決できるのではないでしょうか。


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3.日本の連続生産の現状
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国内の製薬会社でも連続生産の研究が進められていますが、全工程を連結した連続生産には課題が多く、
当面は、連続生産に適した一部の製造工程に限って連結して製造する方法が検討されているようです。

先日(2017年12月19日)参加した静岡化学工学懇話会・化学工学会東海支部主催の “医薬品市連続生産に
求められている化学工学”というセミナの中でも、連続生産に取り組んでいる研究者から、下記の課題が
挙げられていました。
・立上げ時にロスが出るため、原薬の値段が高く需要の少ない医薬品は連続生産に適さないのではないか?
・品質不良を早い段階で防げるとは言っても、設備がつながっているため、不良が出た場合は設備全体を
 洗浄しないといけない

このような技術的な課題に加えて、下記のような薬事的な課題もあります。
・今後ロット、バッチの定義をどうするか?
・それと絡んで安定性試験はどう行うべきか?
・連続生産を行う場合、洗浄のタイミング・頻度はどうするか?
・プロセスバリデーションは何をどの規模で行えばいいか?
薬事的課題ついては、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)は、既に“革新的製造技術ワーキング
グループ”を立ち上げて、検討を開始しているようです。


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4.来るべき連続生産時代への準備
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連結された工程を全て通過し出来上がったものをテストしてはじめて不良とわかったのでは、
連続生産への期待として挙げられている、品質不良の早期の防止、コスト軽減は実現できません。
これらを実現するためには、Quality by Design (QbD)によるアプローチが必要となってくると
考えられます。

<参考>
QbD(Quality by Design:クオリティ・バイ・デザイン):
 事前の目標設定に始まり、製品及び工程の理解並びに工程管理に重点をおいた、立証された科学及び
 品質リスクマネジメントに基づく体系的な開発手法。”設計による品質の作り込み”とも言われる。
QbDによるアプローチ:
 ①予め製品の目標品質を設定する
 ②科学的知見やリスクアセスメントに基づいて、目標品質を担保するために管理すべきデザインスペース
  (工程パラメータと品質特性の範囲)を定める
 ③デザインスペース内で運用することで一定品質を維持していく

連続生産のメリットを出すためには、随所でリアルタイムにモニタリングを行ったうえで、QbDに則り、
製造中のものがデザインスペース内に収まっていることを確認しなければいけません。
デザインスペースに入っていれば、目標として設定した製品品質が得られると予測できますので、そのまま
生産を続ければいいですが、デザインスペースに入っていなければ、連結した後続の設備を汚染しないため
にも早急に生産をストップさせなければいけないのです。

つまり、連続生産へ移行するためにはデザインスペースの設定が求められます。

しかし、デザインスペースの設定は、簡単にはできません。
どんな工程パラメータや品質特性がどの範囲にあれば、目標とする品質を実現できるという根拠となるデータ
の蓄積が必要です。
データはあっても紙の記録しか残っていないとすると、残念ながらすぐに統計的に解析して活用することは
難しいと思われます。
今後は紙ではなく電子データを残すことを検討されるべきでしょう

となると、来るべき連続生産時代への準備として、設備・品質・環境等、製品の品質に影響を与えるであろう
データを、機器やセンサにつないでリアルタイムに受け取り蓄積する仕組みづくり(IoTの活用)が必要不可欠と
なります。


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5.IoTの活用
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IoT(Internet of Things)と聞いて、またかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
実際、IoTという言葉を聞く機会が昨今非常に多いと思います。

IoTは、「モノのインターネット」と言われ、様々なモノ(物)がインターネットに接続され、情報交換する
ことにより相互に制御する仕組みと言われています。

製薬会社様がIoTを活用する場面というと、一般的には下記のようなことを考えられるケースが多いかと思います。
・倉庫内の温度のモニタリングと、異常発生時の通報や制御
・工程内の温度、湿度等のモニタリングと制御
・設備の稼働状況の確認
・設備データのモニタリングによる、設備の故障の予測
・特定エリアのへの人の立ち入りの検知
・現品やパレットにつけた電子タグの読取による物の移動の検知

しかし、IoTは、こういったモノの監視・制御だけではなく、デザインスペースを設定するための電子データの
蓄積にも有効なのです。

モノから直接送られてきた電子データは、人が記録するのと異なり、記録ミスも改ざんもなく、リアルタイム性も
あるため、データインテグリティの観点からも信頼性が保証されます。
また、データは、年次照査や安定性の検討にも利用できるので、“うちは、連続生産に切り替えるなんて無理だ”
と思われる製薬会社様も、まずは、IoT化を進めることをお勧めします。

参考資料
 https://www.fda.gov/downloads/AboutFDA/CentersOffices/OfficeofMedicalProductsandTobacco/CDER/UCM341197.pdf
 https://www.pmda.go.jp/files/000216656.pdf
 薬食審査発第0628第1号 「製剤開発に関するガイドラインの改定について」(平成22年6月28日発出)
 https://ja.wikipedia.org/wiki/モノのインターネット


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まとめ
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連続生産、いかがでしたでしょうか。
技術的に本当に実現できるのだろうか?と思われた方もいらっしゃったと思います。
また、バッチ生産から連続生産に移行できる製薬会社が一体どれだけあるのかと思われた方もいらっしゃった
と思います。連続生産によって製造・保管等のコスト軽減につながると言われてはいるものの、現実的に
今の生産方法から連続生産に切り替える検討ができるのは、研究開発費が潤沢にある大手製薬会社に限定
されることになるでしょう。
いろいろ考えるべきことは多いのですが、日本が抱える高齢化社会・労働力人口の減少といった問題の
一つの解決策になりうる興味深い話題でもあります。

今年のASTROM通信は、規制動向に加え、業界の新しい技術についても積極的に取り上げていきたいと思いま
ので、今後とも是非よろしくお願いいたします。

☆次回は、1/15(月)に配信させていただきます。


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ASTROM通信』担当 橋本奈央子